保存状態の良い化石が見つかる「化石鉱脈」篠山層群 (3/4)

これまでの研究生活の中での一番の興奮は、ササヤマミロスカワイイの発見(丹波篠山市宮田)

 

-丹波竜の第一次発掘と第二次発掘調査の合間の期間中、2008年に丹波竜第一発見者のひとり、足立冽さんが見つけた化石が、真獣類「ササヤマミロスカワイイ」だと分かる。三枝先生が「いままでで一番興奮した」という大発見。その小ささゆえ、一般的に注目されづらいが、古生物学の研究史上において、大きな意味を持つ発見となった。この発見によって篠山層群の学術的価値が、一気に高まることになる。

ササヤマミロスカワイイが発見された現場(通常非公開)に

特別に入るガイドツアーも実施された。(2019年10月22日)

 

そして、すぐにササヤマミロスも見つかったしね。(丹波竜発見地は丹波市だけれど)丹波篠山市側にもこれで化石産地が出来た。当然、地層がつながっているからだけどもね。しかも全然違うタイプの化石が出てきて。

あれも不思議な発見でしたよね。足立(冽)さん、あの場所に何回も行っていたらしく、最初は、電線か何かだと思ったと。細い棒のようなもので、棒の表面が青くて、芯の部分が赤い。あれも偶然らしいんですよ。ちょうど雨が降って地面が湿ってたと言っていましたね。乾いていると見えづらいからね。本当に偶然です。

ササヤマミロスの発見はすごかったですね。最初に足立さんが骨をひとつ、人博に持ってきてくれて…次に人博の研究員が持って帰ってきた破片の中に、もうあごの骨が入ってたんですよ。すでに転がってた塊の中からね。それ見た時点で真獣類ってわかりました。ただ、あの時は篠山層群の年代測定値が1億3千万年前~4千万年前だった。でもその頃の真獣類となると…相当古いものになってしまう。当時の考え方でいうと、世界最古の真獣類ですよね。でもその後、篠山層群の年代測定値が、1億1千万年前に修正されました。

しかも間をおいて現場を自分で掘ったら、後にササヤマミロスカワイイのホロタイプ(種の学名の基準となる単一の標本)になる下顎骨(下顎の骨)がポンと出てきて。あれはたぶん、自分で見つけた化石でいちばん興奮しましたね。

恐竜よりすごいですよ。だって自分たちのご先祖に一番近いものですよ。ぼく、ゾウを専門に研究をしていたけど、ゾウなんて他人じゃないですか(笑)。人類を起点にして考えると、ゾウはだいぶ離れている。僕が大学院生だった時、当然、骨の進化を習うんです-例えば中生代のほ乳類の進化を習うんですけど、当時はまだ日本からは中生代の哺乳類化石は発見されていなかったので学生時代にみていたのはアメリカの標本レプリカですよ。それを見て「ああ、こういうものがいるんだなぁ」と思っていたくらい希少な化石だった。それが目の前にポーンと出てくる。しかもこんなところから。だって自分の家から日帰りでいけるところ…どうして出るの、って感じですよ。すごい不思議な経験ですよね。

人類化石の研究者って、アフリカまで行って化石調査をするんですよ。そして僕が研究したゾウって、580万年前の人類化石と一緒に出てくる。人類化石がアフリカですよ。でもササヤマミロスカワイイは、もっと古い祖先なのに、そこ(丹波篠山市宮田)から出てくるんですよ。気持ちとして、遠い方が古いと感じそうなものなのに、一番古いものが一番近くにいる。面白いでしょ。恐竜くらいは出ると思ったけど、あんなものが出るとは…と。

日本でいま恐竜化石産地が増えていますが、中生代の哺乳類化石の産地は丹波篠山市を含めて日本では5か所だけです。しかも、小さい化石って、壊れてしまう可能性が高いのに、出てきたのが完璧な顎(あご)ですからね。いまでもあの時代の真獣類で、下顎(したあご)としては世界トップクラスですよ。中国でも真獣類の全身骨格が出るけど、のし柿みたいに、ぺちゃんとなっている化石が、ぺらっとした頁岩の中に入っています。しかもササヤマミロスカワイイは、周りの岩を削って化石を完全に取り出しているから、三次元的に観察できる。その時代の顎の機能の論文を書いている海外の研究者がいますけど、その考察モデルとして、この時代(白亜紀前期)のものはササヤマミロスが使われている。とにかく質が良くて、ものすごく保存状態がいい。あれはすごい標本なんですよ。

 

前肢が完全につながった化石が見つかる(丹波篠山市西古佐)

-ササヤマミロスカワイイの発見に続いて、県立公園の中の岩砕から鳥に近い恐竜のトロオドン類(当時:デイノニコサウルス類)が見つかった。ほとんど変形もなく、骨もつながった状態の「前肢骨格化石」が見つかったことで、篠山層群が持つポテンシャル(可能性)が、あらためて認識されることになる。

 

2011年7月15日 『県立丹波並木道中央公園産出の恐竜化石について』

https://www.hitohaku.jp/research/h-research/kaseki-news-2010.11.html#20110715

 

タンバティタニス・アミキティアエも骨格がある程度、つながっていたよね。でもトロオドンは、前肢(まえあし)が全部つながって出てきているんですよ、指の先まで。「骨がつながっている化石」といえば、最近では北海道むかわ町産のカムイサウルスが有名ですね。発見の発表の後、残りの化石を探したいと思って、ボーリング調査を2回しました。でも、残念ながら、化石には当たらなかった。

もともとあの岩は、公園の工事の時に砕いた岩の一部だったんですね。だから、他の部分もあったんだろうけど、出ない。もしあったら、えらいことですよ。だってあれがあるということは、他の恐竜化石もいくつか見つかるかもしれない。すごいですよ。完璧に、普通のレベルじゃない。

そんな化石のでき方としては、「生き埋め」が想定されるんです。洪水の時に自然堤防が決壊した時に一気に泥が来るんですけど、その時に生きている生きものが、肉がついたまま、一気に生き埋めになってしまう。肉がなくなっていたら、バラバラになってしまうかもしれないですから。

考古学でいうなら、ポンペイの遺跡のようなものですよね。あの遺跡は火山が噴火して、その火砕流でひとつのまちが一気に「生き埋め」になってしまった。ローマで学会があった時に見に行きましたよ。すごい光景でした。その当時のローマの時間を凍結したような状態で出てくるから。かまどがあって、その中にパンが残っていたりする。普通は出てこないようなものが、瞬間凍結したみたいに出てくるんですね。

そういう状態のものが、丹波並木道中央公園にある。だから、洪水が起こって生き埋めされた生きものの化石が他にもあるはずですよ。丹波並木道中央公園は、ポンペイの遺跡みたいなものだよね。公園を掘っていくとポコポコと化石が出てくるかも。だから全部掘りたいですよね(笑)。いつも冗談で言っているんだけど、屋根を付けて、一年中掘ればいいよね。まさに「恐竜公園」だよね、と。

 

トンネル工事の岩砕を残しておき、調査を進める(丹波篠山市大山下)

-川代トンネル工事で出てくる岩砕から化石を探し出す-毎日のように岩砕の搬出場所へ通いながら篠山層群が掘られる瞬間を待った。結果、初めての探索で開始たった30分にして、恐竜化石を見つけることになる。篠山層群の中に化石が含まれる確率の高さに、三枝先生も驚いた瞬間だった。

丹波並木道中央公園には「川代トンネル岩砕」が運び込まれており、

随時、ボランティアと共に石割調査を進めている。

 

川代トンネルの岩砕もそうだね。あの場所に着眼するようになった最初のきっかけは、トンネル予定地のたもとにある河原で、子どもが獣脚類の歯を見つけたことですね。その地層がそのままトンネルを掘る方向に延びているんですよ。だから、篠山層群の部分だけ、工事で出た岩砕を取っておいてもらうことにした。

篠山層群の下は2億5千万年前よりも古い超丹波帯。獣脚類の歯が見つかったところは超丹波帯と篠山層群の境界に近いから、とにかく境目を掘るのはいつか…と見極める必要があったんですね。境目で岩質がガサっと変わるので、見分けは比較的付きやすかった。

事前に、現場の担当部局の人から、工事の開始時期やスケジュールを教えてもらっていたから、工事が始まると同時に岩砕の搬出場所に、何日かごとに通ったんですね。工事の時に作っている地質図や、工事の時に水平にうったボーリングコアなんかも参考にしながら「そろそろかな」なんていいながらでしたね。そして、最終的には「この岩質のあるところは何日に掘りますか」「それを全部取っておいてください」と。

結局、その取っておいてもらった石を探索したら、30分くらいで化石が見つかりましたからね。「あ、あたり」って言って(笑)。すごいですよね。しかもそこに積み上げているのは1日採掘した分の大量の岩砕。化石が入っている地層は薄いから、関係のない岩が9割以上ありますよ。なのに、すぐに見つかりましたからね。

トンネルの山の斜面に沿って、篠山層群が露出しているでしょ。だから、そこを掘っていったら、将来も無尽蔵に出るでしょうね、化石が。金が採掘される鉱脈と同じですよね。篠山層群はまさに「化石鉱脈」ですよ。

 

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