篠山層群の価値をここまで高める要因のひとつが、地元ボランティア (2/4)

「すべての石を割ってみよう」人海戦術が功を奏す

-そこで活躍したのが、地元ボランティアだ。予想以上の希望者が集まり、当初の予定にはなかった「大きな化石だけではなくて、周りの石も全て人の目で見て化石を見つけ出していく」県民参加型発掘調査の原型が出来上がる。この仕組みが後々のさまざまな大発見につながることになった。

丹波竜の発掘調査時の様子を語る 故 三枝春生先生

 

第一次発掘調査のときから、地元の方々に発掘を手伝うボランティアをしてほしいと募集をかけたんです。でも最初はあんなに集まってくれると思っていなかった。結果的に、大体延べ60人以上。1日あたりでも10数人は来てくれました。

でも、本格的に発掘をするために掘る穴って小さいから、5~6人くらいしか中に入れない。発掘には削岩機も使うから、穴の中に入って削岩機を扱える人も限られるわけですよ。でもせっかくみなさんに集まってもらったので、穴の中に入れない方々には、発掘の時に出た周りの(細かい)石を割ってもらうことにしたんです。

それは僕が石川県の桑島(中生代ジュラ紀末期頃から白亜紀前期)の化石調査の事例を知っていたから。そこもトンネル工事があって、出てきた石を地元の人やボランティアさんと一緒に割って、調査をしていたんですね。これ、同じだな、と思って。そして実際に篠山層群でもその手法でやってみたら、獣脚類の歯やら、そして当時は、カエルかわからなかったけど、細い骨も出てくるしね。そういう現場だと、全体のモチベーションが上がりますよね。

ただ、当然ですけど、1回目だからみんな初心者なんですよね。当時、現場監督は自分ひとりだったから、とにかく全ての役を僕がやらなくちゃいけない。例えばボランティアの人に発掘のいろはを教える、化石が出たら調べなくちゃいけない、しかも、新聞記者の対応も必要なわけですよ(笑)。それに僕は脊椎動物の骨や骨格の基礎は分かるけど、恐竜を扱うのは初めてでしたから、ゾウと恐竜の骨の細かいところの違いも、勉強しないと分からない。そういう意味で非常に過酷な現場でしたね。

第二次発掘からは、池田さん(現:池田忠広主任研究員)が入って来てくれて、だいぶ助かりました。彼自身、パワーもありますからね。

 

桑島化石壁産出化石・縄又のモウソウキンメイチク林

https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/siseki/ken3-16.html

 

白山市:化石調査(ボランティア募集など)

http://www.city.hakusan.ishikawa.jp/kankoubunkasportbu/bunkazaihogo/contents_list/kasekitop/kasekitop.html

 

細部まで見る、ないかもしれない場所を掘る-地元ボランティアが下支えする新たな発見

-この地元ボランティアの存在は、以後の研究にも大きな影響を与えることになった。細かく石を見ていくことで、小さなカエルなどの骨が見つかったのに加え、地元では丹波竜発掘調査終了後も、独自の「探索」や「試掘調査」が行われることになる。その活動が、さらに多様な生きもの化石の発見につながった。

参加型で行われている「石割調査」では

「小指の爪の大きさになるまで、石を割り続けてください」と指導される

 

丹波竜が海外の産地で見つかったとしたら? もしかしたら掘らないかもしれない(笑)。例えばモンゴルや中国なんかの恐竜化石産地へ調査で行こうとすると、時間もお金もかけて、わざわざ不便なところに行くことになりますよね。だからできるだけ効率よく、質の良い化石を時間内に掘って、持ち帰りたいわけです。モンゴルなんていくと竜脚類なんて掘らないですよ。もっと論文になりやすくて、話題になる化石を探す。だって竜脚類って大きいから、それ一体分掘る同じ時間と労力で、小型の恐竜の骨が何体分か掘れますからね。

そういう意味では日本は化石が見つかること自体が限られているから、もうこれしかないと思うじゃないですか。例えば、今回、卵化石が見つかったのだって、まさにそうです。田中(康平)さんが「前期白亜紀で小さい卵の化石がたくさん見つかる卵産地は他にないよ」って。それはある意味、当たり前なんですよ。基本的には卵化石は、断面で出るんです。「ごろん」と、まるごとのままではで見つからない。そして、普通、卵って大きい。おのずと断面でも厚みがありますから、見つけやすい。でも小さいと断面をみても、すぐに気が付かないですよね。細い線が石の中に見えるだけだから。

 

篠山層群より発掘された獣脚類恐竜の卵・卵殻化石の記載論文の出版および臨時展示の実施について

https://www.hitohaku.jp/research/h-research/20200623news.html

 

卵化石が見つかった経緯も、普通では考えられないものですよね。あれは、村上さんが偶然、恐竜の骨の化石を見つけて、そこを試掘して発見した。そしてその費用は地元である上久下地域自治協議会が、地域づくり事業の一環として予算化したものを充てた、と聞いています。掘っても出るかどうか分からない場所に、税金は投入できませんからね。丹波竜の発掘調査も6回ありましたから、僕自身も岩の表面は時間がある時に見てたんですよ。でもその時は全然なかったし、気が付かなかった。

卵化石が見つかった時のことは、よく覚えています。あの日は僕も朝に現場にいて、その後ちょっと別のところへ行っていて、夕方に現場に戻ったんですよ。そうしたら池田さんが「こんなの出ましたよ」と。「なんだこれ!」って。2015年の夏に田中(康平)さんが中心となってタンバティタニスと一緒に発掘された卵殻のかけらを論文として出版したのですが、その時彼は「ここの周りに形の残っている卵化石が出てこないですかね」と話していた。僕自身は内心、「それはないだろう」と思っていたのに、結局、その2か月後に試掘をしていたら、出ましたからね。普通に卵が転がっていたら、割れてしまう。一気に押し寄せる激しい洪水ではなく、少し優しいタイプの洪水で埋まったんですかね。あれも形がちょっと崩れていて、完全な巣ではなかったけど、それでもそれが、タンバティタニス・アミキティアエが見つかったちょっと上の地層で出てしまうわけだから。やっぱりあれはすごいですよね。

大体、竜脚類みたいな大きな骨と、カエルの骨みたいな小さなものが一緒に出る地層って、ないですよ。聞いたことないですね。もしかしたら、見つかっても捨ててるのかもしれないけどね。カエルって、湖でも水が溜まっているようなところに、静かにその上に水が溜まって埋まるはずなんです。だから、頁岩(粘土が固まってできた岩。板状で薄くてはがれやすい)の中に入っていることが多くて、それを割ると出るんだけど、あんな氾濫の起こったところで、たくさん出るなんて、変わっている。もしかしたら、それもボランティアさんが、ひとつひとつ丁寧に、小さなものも見つけ出しているから出てきた結果なのかもしれない。それは分かりません。地元のボランティアさんは、とにかく細かいことを一生懸命やってくれるからね。

ただ、全く化石が入っていない地層だったら意味がないけど、篠山層群は、ある程度努力すると、化石が出てくる。それが面白い。篠山層群と、中国の甘粛省(かんしゅくしょう)の地層は年代が同じで原始的な角竜やティラノサウルス類など発掘されている恐竜に共通点がある。でもこんなに小さい-カエルとか卵、ササヤマミロスみたいなもの-は出てない。たぶんあるんだろうけど、中国甘粛省の発掘現場は砂漠だし、そんな環境で出るか出ないか分からない場所を掘って細やかに調査するなんて、気力が続かないでしょ。

 

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