サイ化石調査(1999年)の経験が活きた「丹波竜」発掘調査現場 (1/4)
三枝 春生先生
(インタビュー当時)兵庫県立人と自然の博物館 自然・環境評価研究部 地球科学研究グループ 主任研究員/兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 地球科学部門准教授
篠山層群は「恐竜が実際に暮らしていた地層」だ
-2006年8月、人と自然の博物館に来館した2人(足立冽氏、村上茂氏)が手にしていたのは恐竜の骨。驚いた三枝先生はその日のうちに2人と現場を確認し、その後は、同年9月の試掘調査、そして第一次発掘調査(2007年1月~)の準備に追われることになる。
丹波竜化石の第一発見者のひとり、村上茂さん。
いまでも時々、発見現場に立ってガイドをかってでている。
(足立さんと村上さんが手にした化石を見せてもらって)すぐにすごいものだとわかったので、とにかくすぐに現場に行こうということになりました。この化石を見つけたということは、化石の残りもどこかに顔を出しているわけで、現場がどういう状況か具体的に見ておかないといけない。化石に石が付いていたから、それを見たら篠山層群というのは分かるんだけど、でもお二人によると「掘った」というしね。ということは(化石の)表面が出ているじゃないですか。
しかも見つかった現場が川ですし「化石が川で流されないように」、または「盗掘されたらどうしよう」という心配もありました。だからとにかく急いで現場に行ったんですね。ちょうど、だいたい今頃(15時)ですよね。
実はね、僕の先輩が、丹波竜発見より前に、同じ場所を見ているんですよ。その時は何も見つからなかったようです。でもね、ちょうど発見の一年前かな、大きな台風が来てね。その影響で岩が削れて出てきたのかもしれない。ほんのちょっと石が、ぽんと外れて、化石が顔を出したのかなと。
それまでは僕はゾウの化石を専門に研究していたけれど、でも基本的に研究者って、「ここは化石が出る」と思って現場に行くわけですよ。篠山層群も地質学的に見れば出るだろうとは思うけど、条件は非常に悪いですよね。これまで行っていた調査地では、アフリカでもどこでも地層がむき出しなんです。だから化石がすでに顔を出している。でもあの現場は、地層が出ているのが川のところだけでしょ。他は畑や道路、家がある。そんなたまたま地層が顔を出しているところで、たまたま恐竜化石を見つけるなんて、ものすごく確率が低いから。
あと、2004年に淡路島で恐竜が見つかって…それも、質が良いものなんですよ。「2年連続でそんな都合のいいものが見つかるかな」というのがあるから、最初は「ほんと?」と思った。でも実際、現場に行ったら、(残りの化石も)埋まってるしね。そして、数日後に試掘したら、もうこれ、(淡路島とは)明らかに違うって分かるわけですよ。淡路島の地層はアンモナイトが入っている地層なので、恐竜がここでたまたま埋まっているということだったけど、でも、ここのは「恐竜が実際に、暮らしていたな」「だったら、他の生きものの化石も一緒に見つかるよね」、と。だから試掘した段階で「これは1回の調査じゃ終わらないな」と、すぐにそう思いましたね。
人博に蓄積されていたノウハウを活かしながら始まった「緊張の第一次発掘調査」
-突然、実施の決まった発掘調査だが、幸運にも人博には約7年前にサイ化石の発掘を行った実績があった。そこである程度、調査に関わるノウハウが蓄積されていたのだ。そのノウハウも活かしながら、約5カ月の準備期間を経て丹波竜発掘調査は2007年から6回に渡って実施されることになる。祈るような気持ちの中で始めた調査だが、第一次発掘の開始1週間後には、本体側の化石が残されている可能性が高まった。
「元気村かみくげ」では、丹波竜の発掘調査で取り出された岩や、
その他の篠山層群化石産地の岩石を使った市民参加型「石割調査」体験を随時行っている。
恐竜化石が(見つかって)最初はね、準備が大変でしたよね。でもね、人博の中でも割とサポート体制がすでにできてた。それよりも前の1999年にサイの化石を見つけたんですよ。その時の経験から、発掘運営のノウハウが溜まっていたんです。例えば、どういう資材を持ってきたらいいか、その他どういう作業ローテーション組むか、とかですね。それがあったから、準備もスムーズにできたし、本調査の予算も積み上げることができた。たぶん、サイ化石の調査がなくていきなり「恐竜化石が見つかった」となったら、みんな面食らっていたと思いますよ。
そして第一次発掘調査が始まるんだけど、とにかく最初は祈るような気持ち。いちばん最初に見つかった化石は恐竜のしっぽの部分だから、発掘を進めていくと、単純にその結果の方向は2つあるわけですよ。胴体が手前にあって(すでに流されたか何かして)、残りのしっぽがひょっと出ているのか、それともしっぽの先の方が出ていて、胴体が奥の地層に隠れているか。どっちかわからない。(胴体がもうなくて)しっぽの先だけちょっと、だったら、「期待外れだ!」って言われちゃう(笑)。
最初は上の砂岩を取り外す作業をするけれども、その下にまだ泥岩の層があるから、それを少しずつ掘り下げていく必要がある。しかもいきなりバリバリと掘ったら化石を壊しちゃうでしょ。最初は手探りだから、どのくらいの深さまで下げたらいいか分からないですしね。
だから第一次発掘が始まって1週間くらいは、なかなか、こう、いい感じしない。まだね、ぽろぽろしか化石がでない。だから嬉しくないですよ。外れたらどうしよう、と、内心ドキドキしていました。
しかも、サイ化石発見の時はマスコミはすぐに来なかったですよ(笑)。だから発掘中にプレッシャーがないですよね。だけど、恐竜発掘調査の時は初日からたくさん人もマスコミも来るじゃないですか。だからプレッシャーも大きいですよね。
(調査開始から1週間くらい経ち、化石の残りが見え始めて)ずーっと骨も太くなっていくから…正直ほっとしましたね。ああ、しっぽの残りが出ていたんじゃなくて、まだ胴体が中に残っているかも、と。ただ、すごく掘りにくかった。そもそも篠山層群がとても硬い地層だし、その上、骨の破片(骨片)がね、全部、大きな骨の上にかぶってるんですよ。
竜脚類は背骨の中が、軽量化でスカスカなんですね。たとえていうなら、ハチの巣みたいになっている。つぶれたら、薄っぺらい壁になるでしょ。あれと同じで、背骨がつぶれたら、ペラペラの骨片になる。それが、本体の骨の上にばら撒かれて、覆っている状態。それをひとつひとつ剥がしながら調査をするから、ものすごい時間がかかる。ただ、その骨片の中に別の動物の小さい骨が入っているんです。雑に扱うと本体の骨も壊してしまうし、ものすごい労力をかけて掘り出したんですね。