恐竜化石を探す、子どもたちの真剣なまなざし
石割を楽しいと感じて、
化石を見つけて欲しい

奥岸 明彦さん (篠山市 化石保護技術員 / 恐竜ラボPreparator)

1971(昭和46)年京都生まれ。本気で宇宙飛行士にあこがれた高校時代。社会人になってからは勤めながら、埋蔵文化財について学ぶ。2007年から兵庫県立人と自然の博物館(ひとはく)所属のプレパレーターとして勤務開始。現在は、篠山市化石保護技術院、ひとはく恐竜ラボPreparatorとして、化石が入っていると思われる篠山層群の岩を砕き、クリーニングをする業務を行うかたわら、同じくクリーニング業務と石割調査を担当する市民ボランティアの育成やとりまとめも担う。また、子ども向けの化石石割体験や篠山層群レクチャーも幅広く手掛けている(年に10回開催される子ども向け「化石石割体験」、篠山市内の全小学6年生を対象にした「大地のしくみ」校外学習など)。

 

はじめの豆知識
主に化石発掘や化石クリーニングに関係する用語の意味についてまとめています。本インタビューを読む前の予備知識として、または読んだあとの補足としてご活用ください。

  • ■クリーニング くりーにんぐ
    ここでいうクリーニング(掃除)とは、岩の中に入りこんでいる化石を取り出すこと。取りだすために、最初はハンマーなどで、最終的にはエアチゼルという空気で針を前後させる器具で岩を砕き、化石を傷つけないように丁寧に取り除いていく。集中力や手先の器用さ、「骨格」に関する知識などが必要となる。
  • ■プレパレーター ぷれぱれーたー
    クリーニング作業を通じて、研究者と二人三脚で化石の発掘から研究成果の発表までを行う「化石の掃除と掘り出しのプロ」。
  • ■埋蔵文化財 まいぞうぶんかざい
    埋蔵文化財には、土地と切り離すことのできない住居跡や古墳、貝塚などの「遺構(いこう)」と、土器や石器などの「遺物(いぶつ)」があり、これらが分布している地域を「遺跡(いせき)」といいます。埋蔵文化財は、文字や絵図などによる記録が残されていない時代の歴史を知るための唯一の資料です。また、記録が残されている時代になっても、記録を検証し、多くの新たな事実を明らかにしてくれるのです。
    (今治市教育委員会事務局 ホームページより一部抜粋)
    http://www.city.imabari.ehime.jp/bunka/maizou/
  • ■雨滴痕 うてきこん
    土の上についた雨の跡がそのまま残ったもの。それができるためには、①雨の跡が残りやすい地面の土質であったこと、②土に跡がつくくらい激しく雨が降ったこと、③雨が降った後、跡が消える前に、たくさんの土砂などでその地面が一気に埋まってしまったこと などたくさんの“奇跡”が積み重なる必要がある。発掘調査の際に比較的多く発見されるが、周囲にある恐竜やその他の動植物の化石の調査が主な目的であることが多く、雨滴痕が保存されて見られる状態になっていることは、案外めずらしい。
  • ■種の同定 しゅのどうてい
    生物個体を既存の分類体系に位置付け、その種名を明らかにする作業のこと。(Wikipediaより)

宇宙飛行士になりたかった少年

-わたしもこのインタビューをする前に初めて「プレパレーター」という仕事があることを知ったんですが、奥岸さんがこのお仕事にたどり着くまでに、どんな紆余曲折があったか教えてください。

小さい頃はアリの巣を爆竹で爆破するような(笑)、まぁ、普通の子どもでした。でもね、高校生ぐらいまでは本気で宇宙飛行士になりたかったんですよ。まだJAXA(宇宙航空研究開発機構)というものもなかったんですかね。(毛利衛宇宙飛行士は1992年にスペースシャトルに搭乗していたが)JAXAが独自で日本人宇宙飛行士を養成する仕組みもなかったですよね。元々、地面の中のものに興味がったというわけではないんですよね。

-その頃から、見ている視点が大きいですね。

思わないですか?この世界にうまれて、僕らってジャンプして地上から一瞬足を離すことはできるけど、地球から「出る」ことってできないじゃないですか。ちょっとでもいいから、ずっと上の方から自分の住んでいる世界の全体像や宇宙をこの目で見たい、という欲望ですよね。地面にへばりついて生きるだけでは面白くないと思ったんでしょうね。

-宇宙から地球に関心が移ったのはなぜなんですか?

その当時、20歳くらいの時ですかね。吉村作治さんがね、エジプトの発掘の関係ですごくたくさんテレビに出ていたんですよね。その影響が大きかったです。あの人の番組で「失われ忘れ去られてしまったものを見つけ出す楽しみ」というのを知って、気持ちが高ぶりましたね。

-歴史が好きというよりは、「探索する」「探し出す」ということに興味がおありだったんですね。

あまりキッチリした答えを求められると困るんですけど…やっぱり一言でいうとロマンなんでしょうね。何がどうなっているのか、知りたいじゃないですか。それに傍観者じゃなくて、「自分が」関わりたいんですよね。

-高校生から大人になる間に、それが叶えられた場面はありましたか?

叶えられるというか…大人になってから少しだけ関わる機会はありましたね。実際に発掘する立場とかではありませんでしたけど。

-いまでも宇宙飛行士のなりたいという夢は持っていらっしゃいますか?

なりたいですよ。でも、宇宙飛行士になりたいというよりは、宇宙に出る手段のひとつとしての「宇宙飛行士」ということですね。

-じゃ、宇宙に出る旅行のようなものでもいいということですか?

旅行はちょっと違うかもしれませんね。自分なりに自分の目的でいろいろ見てみたい知りたい、自分の主観的な感じで、ですね。

研究者と二人三脚で「地球の自叙伝を編纂する」

-以前、「プレパレーターは1000年後も、今ある標本を今あるままに残す仕事」「化石のクリーニングをする人=プレパレーターでは無い」というお話をお聞きしました。

クリーニングというのは、石の中に埋もれた化石を、石を取り除いて取り出すことですね。そして個人的な見解ですけど、プレパレーターってきちんと日本語に直訳すれば「標本管理」なんですよね。発掘もする。クリーニングもする。さらに、保存処理して博物館の研究資料や収蔵品として登録する。要はクリーニングも含めた標本に関する全てを行う立場だということです。
化石は地層から掘り出されてプレパレーションされた時から、劣化・風化が始まります。これまでとは違う環境に置かれますから、例えば紫外線や湿気などがあるだけでも、化石にとっては「劣化・風化」を進める要因になってしまう。究極は母岩のまま(岩の中に化石が閉じ込められたまま)でいるのが、化石にとっていちばんの保存法なんです。その劣化や風化を最小限にとどめるために、プレパレーターは保存処理をする。もちろんその保存処理技術は年々進化しています。
僕が思うに、プレパレーターというのは研究者と対であるものです。研究者は出てきたもの…例えば、恐竜の化石で言えばそれが一体どんな恐竜のどこの部位だとかを研究して論文にして、人々に伝えていくという役割を担っているじゃないですか。その中でプレパレーターが担う役割は、「研究するものを準備する・研究できる状態にする」「それを1000年先も、研究者や一般の人たちも見たり触れたりすることのできる状態に保つ処理をする」、とにかく「化石標本を遺す」というのを究極の目的にした仕事かなと思っています。

-研究者との関係は助手というよりは、パートナーなんでしょうか。

そういう理解ですね。もちろん研究者が望むものを提示する、用意するわけですから、「上司と部下」という関係でもありますが、結局、やっている内容はお互いがお互いを補完し合っている関係ですね。クリーニングしたもの、保存処理したものがあったとしても研究者がいないと価値づけできない。逆に研究者は研究者で自分でプレパレーションするには時間もリソースも足りないので、それをしてくれる人が必要。「相互協力」の関係だと思っています。

-「技術者」なんですね。

プレパレーターに対しては「何かを創りだす」とかのイメージもあるようですが、そうではなくて自然にあるものを、そのままきちんと取り出してくることが何より大切です。取り出し方、保存の方法に創意工夫はありますけど、化石そのもの自体が世界でただひとつの自然の完璧なオリジナルなので、それを有るがままの姿で遺すということがとにかく一番重要なんです。
大きくは…ちょっとロマンチックな話になりますけれども-プレパレーターだけじゃなくて研究者もそうだと思いますが-「化石」ってプレパレーションして研究しても、明日から国民の生活がすぐに良くなるとか世界平和が訪れるとか、そういうことに直結はしてないじゃないですか。だから、個人的な心もちとしては「地球の自叙伝を編纂している」ようなイメージですよね。

-すごい詩的じゃないですか!(笑)

いや、でもね、本当にそう思っているんですよ。(我々のやっていることの)意味ってなんだい、と考えた時にね、それが新しい技術になってお金が儲かるとかは全く無い(笑)。でもこの先、何億年か何十億年か後、間違いなく地球は終了するじゃないですか。人間はおさるさんより少しばかり知的で、さらに生きものの中で人間だけが、「様々な形で色々な事を記録に残せる」。その作業の意味はなんだ、と。地球が死ぬ前に自分の生きざまを残しておくがための役割を人は意図せず担っているんじゃないか?…たまに池田先生と酒を飲んでいるときにそういう話をしちゃうんですよ。

プレパレートのトレーニングを受ける

-そんな「プレパレーター」という職業を選ばれたきっかけはなんだったのですか?

ドラマチックなことは何もないですよ(笑)。宇宙飛行士と一緒で「見つけたい」「関わりたい」と思って掴んだものがプレパレーターだったというだけで。でも関わった限り、必要だと思われないといけないわけで、だからそれに対しては努力をする、ということですね。重大な転機とか劇的な出会いとかあれば、この話も面白くなるとは思うんですが、残念ながらそういうことはない(笑)。
実際のところ、僕の場合は、埋蔵文化財が好きで生活の糧を得るための仕事をしながら、何か関係のある仕事はないだろうかと探していたところで…情報が出ていたんですよね。普通に探してたら「あるやん!」というね。本当にその時はびっくりしましたけどね。7~8年前に人博から化石クリーニングの募集がかかった時です。早速応募しましたね。試験を受けて晴れて合格して…それに携わることになったんですよね。
なので、それまで特に恐竜マニアだったとかわけではなくて。子どもの頃は「普通の男の子としては好き」という程度ですよ。恐竜については「日本ではあまり発掘されない」という知識はあったので、まさかそれに自分が携われるとは思ってもみなかったです。アメリカにいれば恐竜とか化石に関わる仕事というのはもう少し現実的ですけれどもね。日本だと埋蔵文化財の方が身近ですよね。

-7~8年で、技術は身に付くんですか?埋蔵文化財とは似ているところはありますか?

みなさんもそれくらいの年数やれば技術的なものは何の問題もなくできると思いますよ。あれ(化石のクリーニング)は根気勝負ですよね。あとはセンス。
埋蔵文化財の場合は土から人工物(遺跡など)掘り出しますよね。化石は石や土から自然の物掘り出すんで、古い物を探し出すって意味では似ていますね。あと、どちらもロマンが溢れてます(笑)
技術的な話ですが、例えば化石をクリーニングするなら、石の中に埋まってしまっているものですから、骨格の知識がないと「その先がどうなっているか」が分かりませんから作業が難しいんですよね。出たとこ勝負でやっていると失敗するので。だから、好むと好まざるとに関わらず、骨格についても多少は勉強しないといけないということで、身に付いてきたところはありますね。

-学べば身に付いてくることなんですね。篠山や丹波でクリーニング作業をされている他の方も、同じく学び続けていまの技術を磨かれたんですね。

そうですね。篠山市のボランティアさんの場合、個人差はありますがまずは何年か石割調査をしてもらうんですよ。石割調査で「これが化石かどうか」を見極める訓練をしてもらいます。それで「この人ならば大丈夫」という人に「クリーニングやってみますか?」って声をかける。そういう方ってある程度興味があってボランティアに来られているので、そう言うと「ああ、じゃあやってみたいです」と。
化石を見分ける能力だけじゃ無くて、性格なんかも見ていますよ。本当に細かい、0.1ミリ単位で作業してもらう訳ですから性格がもろに出るんですよ。もちろん石割調査で化石探しが楽しいからクリーニングは興味有りませんって方もいらっしゃいますから、それはそれで良いと思ってます。

-プレパレーターというお仕事って日本ではなかなか認知されていないと思います。

そうですね。認知されたいですよね。個人的には、日本の伝統工芸を支える職人さんとどこが違うのかな?とさえ思います。「技術を究める、継承する」ということでいえば、根本的には似ていると思うんですけどね。

「小さい化石も見逃さない」研究環境がある人博チーム

-埋蔵文化財にご興味もあるということで、当然、博物館へ行って展示物を見る機会もありますよね。埋蔵文化財にしろ、恐竜化石にしろ、展示しているものをみて「クリーニング甘いな」とか「どんな技術を使っているのかな」とか、そういう風に思われる瞬間はありますか?

それはありますね。純粋に「わ!すごい!」というのがなくなってきて、嫌なんですよ。重箱の隅をつつくようなことを思ってしまう自分が嫌です(笑)。もうちょっとうまくできるだろ、とか。もう少しこうしたらいいのに、とかね。
研究者それぞれの考え方があるんですよね。例えばクリーニング作業にしても必要な部位(骨の部分)だけ出していればいいという研究者もいるし、全部出さないと気が済まないという人もいる。もちろんプレパレーションに携わっている人の価値観や感覚もあります。どこまで出してどこでやめるか、という。必要なところさえ出ていれば後はプレパレーター次第なんですよ。もちろん研究員から「ここもうちょっと頑張って」とか「全部出してほしい」と要望があれば出しますけれども。そうじゃなければ「ここはもう攻めてもしかたがないな」というところは自分の判断なんです。

-職人さんのようですね。「わかるわかる、そこまででいいって言うのはわかるんだけど、もう少し出したらここまで見えるのに」とか「観る人によってはここまで出してくれたらありがたいのに」とか、心の中でひとりごとを言いながら展示物を見てしまうんですね。

でも自分がクリーニングしたものも、他の人が見ればそう見えているのかもしれませんよね、逆にね(笑)。

-日本国内では海外からの標本やボーンベッドをジャケットごと買ってきてクリーニングしている研究機関もありますよね。日本と海外の違いのようなものはありますか。

クリーニングのしやすさについては、母岩の質や化石の状態によりますよね。差があるので一概には言えませんけど、同じものを同じ土俵でクリーニングさせてもらったら、我々の方が上手くできるのに、と思うときはありますよね。例えば中国だと大げさに言うと掃いて捨てるほど出てくるんですよね。だから失敗しても、途中で止めてしまってまた新しいものに手を付ければいいんですよ。どうしても扱いが雑になる。三枝先生も言ってましたけど…研究中の日本の化石と対比のために中国に渡って中国の化石の現物を見てみると、荒っぽいと。日本人はその辺は妥協しない。だからカエルだとか細かいのをやっているのは、日本がほとんどで、その日本でも人博くらいでしょうね。そもそもカエルやトカゲの骨が日本では篠山層群以外では大量に出てこないということもありますしね。
海外に行くともっと大きいもの(化石)がメインになってくるんですよ。細かなものは後回しか放置ですね。

-「篠山層群の特長」と言ったときに、よく「いろいろな種類の恐竜、そして哺乳類や両生類が発見されています」と説明するんですが、それは他の地層に含有してないというよりは、クリーニング技術も含めた研究環境があるから発見できているということもあるんですか。

それも大きな一つの要因じゃないかと僕は思いますね。中国でもたくさん出るんでしょう。でもそこまで細かくクリーニングしないんですね、たぶん。それはそれでうらやましいですよね。やっぱりいろんな種類の化石を扱ってみたいな、とも思いますしね。

-人博はそういう意味では結構シビアにクリーニングの状況を見る研究機関なんですか?

相当厳しいですよ。研究員のキャラクターと、それに応えようという我々(プレパレーター)の側の意識ですよね。いちばん厳しいのは、ひとはくの恐竜ラボ所属プレパレーターの中心人物でもある和田さんなんですけれど。あの人は本当に技術者ですから。和田さんはプレパレーターとして僕の2年ほど先輩なんですけど、すごいですよ。創意工夫も技術も僕じゃまだまだ足元にも及ばない。巨大な山となって立ちはだかる師匠です(笑)。元々は普通の企業に勤めていらっしゃった方で、しかもバリバリの技術畑の。僕の技術は和田さんから学(盗)んだものです。

道具をも自分たちで作り上げるプレパレーター

あと、アメリカの学会で、和田さんが開発した道具についての論文が発表されたんです。既存のエアチゼルの製品を使ってクリーニングしているんですけれども、その針の研磨機ですね。チゼルの超硬の針を人工ダイヤモンドで研磨するんですが、半自動で針の中心をぶれずに研磨できるという機械ですね。それまでは自分の勘や手の感覚で中心を出す方法だったんですが、和田さんのつくったものであれば、誰がやっても「針の中心を出す」ことができるんです。その理論や機構を和田さんが考えたんです。その他にもエアチゼル自体を手製で創ってしまったりアートナイフの改良開発したり…などなど…とんでもない師匠に厳しく指導されてます(笑)

-プレパレーターの方は、日本で何人くらいいらっしゃるんでしょうか。

どうでしょう…20人いればいいくらいじゃないですか。なかなか職業として認知されようとしても難しいですよね。

-今後、日本でプレパレーターの地位がどうなればいいなと思いますか。

もう少しきちんとした立場ですね。裏方さんでいいんですけどね、でもちゃんとした職業として、立場が保障されている方がうれしいですね。そこがきちんとしていないと、食べられない、続けられない。熟練の人が育たない。もう少しいろいろ調査が進んでいけば、他所からも化石がでるかもしれませんけど。日本の人数的な枠はほぼずっとこのままだと思います。

-職人って「手の柔らかい10代のうちから修行しなければ」という話がよくあるじゃないですか。でもプレパレーションに関しては、それまで全く違うことをしていた人でも、細かい手仕事ができる人であれば50歳になってもプレパレーターになれるかもしれない。こういう技術は大学で勉強して身に付くものではないということですか?

学校で知識を得る、とかは…あまり意味がないですね。結局はセンスと技術。実際現場で何ができるの?どういう人なの?というのがすべてなので。実力勝負ですね。あと、素質として手が震えない人。他にも常に同じ姿勢で実体顕微鏡をのぞくので、肩の凝りにくい人(笑)、顕微鏡酔いのしない人が向いてますよね。

研究者が決める「クリーニング」の優先順位

-山南の川代渓谷発掘現場の石もありますし、他から出てきた「化石が入っていそうな石の塊」がまだまだあるとお聞きしています。まだまだクリーニングしなくちゃいけないものがありますよね。そういう意味では、クリーニングやプレパレーション、研究が進んで、10年後に新しい発見があるかもしれない。

可能性はありますよね。篠山の現場の石はプラスタージャケットのまままだ開けてないですからね。骨の断片が見えている、もう化石が入っているのが分かっているものなので。開けると…またスタートですよね(笑)。

-そういう、「この化石からクリーニングをしよう」と優先順位を決めるはどなたですか?

研究員が決めますね。何を研究したいのか。どういった部位が欲しいのかということで。それが片付いてくると、それ以降は自分たちの判断で決める時もありますね。歯とかね。特徴が出やすいので種の特定がしやすい部位なんですよ。そして、ただのぼろぼろの骨片は後回しになるんですね。
獣脚類とかは身体が見付かって無いので歯。部位不明の骨片の中に持ち主がいるかもしれないですけどね。分からないです。ちなみにどれだけ破損していようが、歯を見れば研究者は種が分かるんですね。すごいですね、やっぱり。

-化石発掘の記者発表を見ていると「骨が関節した状態で発見された」とかいう表現がありますね。

そうですね。「つながった状態」というのが大切なんですよね。丹波竜も関節して出てるじゃないですか。つながっていないと…骨が一カ所からいくつか見つかったとして、例えば子どもたちの骨と奥岸の骨が混ざっているかもしれないですよね。復元した時に子どもの骨と大人の骨が混じった状態で復元したらとんでもない姿をした人が、出来上がってしまう。でも関節した状態だと一体分、「これは奥岸の骨だ」って確実に分かる。これが重要なんだとよく子どもたちにも説明するんですけどね。

-恐竜の知識があまりない人でも、展示を見る時に「関節した状態で見つかった」というものをみたときは、貴重なものを見ているということですね。

そうですね。いいものを見ている、ということですね。この公園(兵庫県立並木道中央公園)で見つかったもの(デイノニコサウルス類)も、関節した状態でしたよね。残り方から見ると、頭の部分なんかもあったんでしょうけど。でも工事の時にバラバラになっちゃったんでしょうね。

子どもと共に化石発掘を進める

-いま、篠山市内の小学6年生を対象にして校外学習(単元「大地のつくり」)をされていますよね。他にも年に10回されている定期プログラムにリピーターとして来て、化石かどうかを自分で見分けられるようになってしまっている子もいると聞きました。

他のことにも通じているんですけど、素質のある子っているんですよね。意欲の問題なのかな。こちらも化石を見つけてほしいから、いま分かっているいちばんいい方法を意味も含めて説明するんです。例えば「ハンマーは平たい方だけ使うっていうルールだから」、じゃなくて、「ハンマーの平たい方を使って石を割らないと、尖った方だと大怪我にも繋がるし、化石も粉々に壊れてしまう事が多くなる」というのを教えるんです。やっぱりよく見つける子はきちんと意味を理解してそれを実践してくれますね。自分の中でこちらが言ったノウハウをストックしていくんですよ。違うとなったときも、なぜ違うのかまで聞いてくれる。そうじゃない子というのは、「違うのか、あ、また割ろう」となるんですね。

-今まででアンキロサウルスの歯とか見つけた子もいる。初めての石割で見つけるんですか?

そうですね。眼がいいんですよ。現生の草の根っことか発掘の際のスプレーの跡とかくだらない物まで見ちゃいますけどね(笑)。でもそれがつながっていますからね。

-校外学習で1度に多くて何人くらいの対応をされているんですか。

2クラスですね。約80人。でも1回40人ずつで2回に分けます。先生が2~3名随伴。石割体験時は10人に1人ボランティアさんをつけるようにしています。

-丁寧に見ているな、と思うんですけど。10人に1人の割合でスタッフが付くというのは。

結局ね、子どもも一生懸命石割をして、何か見つけて…早く聞きたいじゃないですか。20人に1人だと「聞きたい人の列」が出来ちゃって並んじゃうんですよね。並んでいる時に、「早く次の化石探したいのに…」とか思いながら。10人に1人くらいならば、ちょうどいいんですよ。1ブロックに化石を見られる人が1人くらい付くのが経験上いいかな、と思ってやっています。
それから、化石かどうかを確認した時に、例え化石じゃなくてもちゃんと褒めてあげる。「ちゃんと見てるね」「見方がいいね」とかね。「石の割り方がいいね」とか。少々問題のある子も時にはいるんですけど、そういう子には特に声掛けしていますね。ずるい大人のやり方なんですけど。

-奥岸さんの子どもへの声のかけ方のボキャブラリーはすごいんですよ。プレパレーターでいらっしゃるけど、教育普及についても深くかかわっていらっしゃるなというのが良く分かる。心がけていらっしゃるんですよね。

ちょっとカッコいい言い方かもしれないですけど、本当に見つけてほしいんですよ。そして(石割が)面白い楽しいものだと思ってほしい。「仕事だから」という態度で「とりあえずいまこういう説明しておかないと、後でいろいろやっかいだ」とか、そういう打算的なのは全く無いんですよ。どういえばいいのかな。本当に知ってほしい。言葉にすると…こういうありきたりな言葉になっちゃうんですけど。
子どもたちも個性があるじゃないですか。その子その子、それぞれに見つけさせてあげようと思ったら、それぞれに合った(理解出来る)言い方や教え方にしようと思って。誰も彼もひとからげにして言っちゃったら分からない子もいるしね。

-事前に先生と「この子は要注意」みたいな話はするんですか?

ああ、事前に先生に聞くのは「ハンマーを振りまわすような子はいませんか」ということだけ。その一点だけですね。あとは実際に会ってみないと。うまく言えないけれどそういうことです。自分でみて自分で判断するのがいちばんですからね。

-石割体験のプログラムは、ご自身の経験から作り上げたものなんですか?

ひとはくで開催している石割発掘体験があるんですが、それを元にしつつ、いまの状態に発展させていったという感じですね。
化石のプレパレーターになるためには、化石を見る事が出来ないとダメなので、石割は必ずやるんですよ。(トレーニングとして)3ヶ月から半年くらい毎日。一度は通る道です。
石割発掘体験にしても当然、最初は何も分からないので研究員から教えてもらうじゃないですか。で、自分がいざやってみたときに、こう教えられたけど、人に伝える時はこう言った方が分かりやすいな、とか、あるじゃないですか。あとは失敗と改良の繰り返しですよね。
失敗と言えば、初めて篠山市が主催でイベントをやったときに、参加者が0人だったんですよ(笑)。もう破りようのない記録。そこからのスタートなんですよね。当時支所の駐車場でやるつもりで40人分用意していたんです。それで、その時の担当者と待っていたんですけども、誰も来ない…。予約制ではなく、当日受付だったんでね。今でもハッキリ覚えているんですけど、小学生くらいの子がお母さんのクルマに乗って、こちらに向かってきたんですよ。で、始まっているはずなのに誰もいない。そのままクルマでしゅーっとUターンして帰ってしまいましたね(笑)。だから、今少々面倒な事があろうが、あの時と比べればどんなことがあってもなんてことはない。

-じゃあ、その次に参加者が目の前に現れた時は…

それはうれしかったですよ。ホント、勉強になりました。ひとはくでやるときは宣伝しなくても、人がいっぱいになるんですよ。でも篠山でやろうとした時は…(ひとはくと)同じことが起こると思っちゃってたんですよね。

-大人に対するときと子どもに対するとき、伝え方は変えますか?

大人にも同じように説明はしますけれども、ちょっともう一歩求めるというか。一歩踏み込んだところを言ってしまいますね。子供達より頑張れるでしょ、と思っちゃうんですよ。

-結果論からいうと、あまり変わらないのじゃないですか?

変わらないですね。確かに。子どもの中には適当にどんどん割る子もいるじゃないですか。でも大人はほとんどが良くも悪くも説明されるとかなり忠実に守ろうとするんですよね。時間かけてじっくりとね。結果、適当にやってた子が見つけるってのはなんともね。きちんとやる子とか、一生懸命やる人の方が報われるべきだと思うんですけど。運ってのはね…。

たくさんの人たちが関わって成り立つ
化石発掘・研究プロジェクト

-丹波エリアにどんな研究者がいて、何を知りたいかによって発見速度や発見されるものが変わるということですよね。そういう意味では、丹波エリアでは三枝先生が大型のゾウの研究者、そして蛇や小型脊椎動物の研究者である池田先生がいたというのは大きなことですね。この地域で「化石の発掘」「研究」に関わっている人って、何人くらい関わっているものなんでしょうか?

研究者2名、プレパレーターが稼働しているのが5名くらい。その下に篠山のクリーニングのボランティアさんもいますね。ひとはくの恐竜ラボだけに絞ってもかなりの人が携わっていますね。ある意味、徳川(広和)さんもそのお一人ともいえますし。そうやって考えると関わりの定義次第でとんでもない人数になっちゃいますよね。今度数えて是非教えて下さい。雑学ネタで使わせてもらうので(笑)

-「ラボーンズ」というグループはその5名を指していますか?

ラボーンズは5名の他にもメンバーがいるんです。ひとはく恐竜ラボの中にいる(または以前所属した)メンバーの「有志の会」ですね。人博でやっている石割体験は今は人博主催ではなく人博の連携グループとして、ラボーンズでやっているんですよ。初期からのメンバーは和田さんと僕しか残ってないですけど。「教育普及をやってみよう」という高尚な気持ちではなくて、もっと軽い気持ちで始めたんです。石割体験を指導する時間的な余裕が研究員はないのでね。じゃ、全部請け負っちゃおうかと。イベントを考えるのも面白いよね、というノリです。石膏から何か削りだすとかね。だから「普及のため」「周知のため」とか深く考えていないです(笑)。

-プレパレーターとは違って、現場での発掘の時は発掘ボランティアさんがいらっしゃいますね。

膨大な人数です。僕自身は山南の現場の3次発掘(2008年12月2日~2009年3月1日)から参加しています。発掘の時は発掘作業のできる期間が決まっていますから、休みもそこそこに作業に専念するんです。三枝先生をチーフにして、化石を周りの岩ごとプラスタージャケット化(岩石が崩れないように、石こうにひたした麻布でくるんで固める)するチーム、岩盤を砕いて化石が無いか探すチーム、そして砕いたあとの岩の破片を割ってさらに化石がないか調べる石割チーム、と大体3チームに分かれて作業を進めます。
ほとんどのボランティアさんたちは上の方で石割に専念されるので、結局は発掘現場に下りてガリガリと一番の肉体労働やるのはほぼ我々になっちゃんですけど(笑)

-発掘作業から石割、そしてクリーニング…そういう一連の作業は全てプロの人がやっていると、私は思っていたんです。でも篠山層群の場合は石割なんかは子どもも参加できる。なかなかそういう場所ってないですよね。

そうですね。何といってもそもそも日本で恐竜やその他の化石発掘を現在進行形でやっている所が少ないですから。発掘調査体験という形で参加してくれている一般の子供達や大人の方々もそうですし、先に話したクリーニングのボランティアさん、発掘の時のボランティアさん、その他にもたくさんの方が関わって「世紀の大発見」が成り立っているんですよね。それがこの「篠山層群」が持つすごい魅力的な一面だと思います。

 

■奥岸さんどうもありがとうございました! 最後にパチリ。